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売買取引における契約解除の権利は、イスラームの大きな特質の1つです。売買取引においては熟考や十分な用心、価格の考慮などを忘れて無計画に契約を結んでしまい、その結果契約者の両方あるいは片方が後悔してしまう、といったことが往々にして起こり得ます。そのような中でイスラームは契約解除の権利という熟考の機会を設け、契約続行と契約破棄という契約者にとっていずれか都合の良い方を選択することが出来るようにしたのです。ここではその詳しい形式や状況についてご説明します。

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2契約解除の権利

 

     契約解除の権利が定められたことの英知:

売買取引における契約解除の権利は、イスラームの大きな特質の1つです。

売買取引においては熟考や十分な用心、価格の考慮などを忘れて無計画に契約を結んでしまい、その結果契約者の両方あるいは片方が後悔してしまう、といったことが往々にして起こり得ます。そのような中でイスラームは契約解除の権利という熟考の機会を設け、契約続行と契約破棄という契約者にとっていずれか都合の良い方を選択することが出来るようにしたのです。

ハキーム・ブン・ヒザーム(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“売買取引する両者は、その(売買取引の)場にある限り、(取引の最終決定に関する)選択権を有する。”あるいはこう言いました“・・・別れるまで(取引の最終決定に関する)選択権を有する。それで(その交渉取引において両者が)正直であり、また(商品の詳細に渡って)説明するならば、彼らはその取引において祝福されるであろう。しかし(その交渉取引において両者が)何かを隠蔽し、また嘘をついたりするならば彼らのその取引における祝福は抹消されるであろう。”(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[1]

 

     契約解除の権利の種類:

契約解除の権利には様々な種類があります:

1-契約の場における契約解除の権利:売買取引や調停、賃貸など、財産を意図した有償的契約において定められています。またこれは契約者両方の権利であり、その期間は契約時から契約者同士が物理的に別れる時までです。両者共にその権利を放棄すればその権利は消失しますが、一方のみが放棄した場合にはもう一方の許にのみその権利が残ります。そして契約者同士が物理的に別れた時、契約の遂行が義務付けられます。尚相手に契約解除の選択を与えまいとして契約の場を離れることは、禁じられています。

2-取引条件としての契約解除の権利:ある取引において契約者同士が合意して、あるいは契約者の一方が契約解除の可能な一定の期間を条件付けた場合、その期間が例え長期間に渡るものになろうとも、その条件は有効となります。その期間は契約時から条件付けた期日までとなり、もしその期日が来るまでにそれを条件付けた者が契約の破棄をしなければ、その契約はその後遂行を義務付けられることになります。尚もしその期間内に両者が契約解除の権利を放棄すれば、それは消失します。

3-契約者間の相違ゆえに発生する契約解除の権利:契約後に両者間で価格や商品そのもの、あるいは商品の性質においての相違が発生し、しかも両者に各々の主張の裏付けとなる証拠が存在しないような場合に定められた契約解除の権利のことです。このような場合は売った側に「アッラーにかけて。私はあなたに何某を何某の額で売った」といった風にアッラーに誓いを立てさせ、それから買った側にその条件で契約を続行させるか、あるいは破棄するかを選択させます。

4-商品の欠損によって発生する契約解除の権利:もし契約後に商品にその価値を損なうような欠損が見つかった場合、買った側は契約解除の権利を有します。それで契約を破棄するか継続させるか選びますが、後者の際には欠損の補填を得ることが出来ます。つまりその商品の完全な形における値段と、その欠損のある商品の値段を調べ、その差額分を売った側から受け取るようにします。

また両者間で、商品の欠損‐家畜の足のびっこや、食物の腐敗など‐が誰のもとで発生したかについて意見の相違があった場合、売った側に「アッラーにかけて。私はあなたにそれを何の問題もない状態で売った」といった風にアッラーに誓いを立てさせ、それから買った側にそのまま契約を続行させるか、あるいは破棄するかを選択させます。

5-不正によって発生する契約解除の権利:契約者の一方が取引した商品において、非常識な程度の大きな不正を被ることで発生します。そもそもこのようなことは禁止された行為であり、その契約の続行か破棄かを選択することが出来ます。例えば購入者がある商品の市場価格に無知であることに付け込んで、それより高い破格の値段で売りつけたり、または桜を使った商売で商品をひどく高い値段で買わせたり、あるいは値引きの不得手な者に商品を並外れて高い値段で売ったりすることで、そのような場合騙された方は契約解除の権利を有するのです。

6-商品の虚飾によって発生する契約解除の権利:売る側が商品を、虚飾によって魅力的な物に見せかけることで購入者を騙した結果、発生します。例えば家畜の乳が良く出るように見せかけるため、売買の折まで乳を搾らずに置くようなことです。このような行為は禁じられており、騙された側は契約を継続するか破棄するかの選択権を有します。

尚もし商品である家畜の乳を搾った後に契約破棄をする場合には、搾った乳の代償として1サーア[2]のナツメヤシの実と共にその家畜を返却します。

7-売人が言及したある商品の値段が実際と異なっていたり、あるいは実際よりも高めであったことが判明したりした際の契約解除の権利:購入者は損失の差額を受け取ることを条件に契約を継続するか、あるいは契約を破棄するかの選択権を有します。

例えば万年筆を3000円で購入した者の所にある男がやって来て、「その万年筆を、あなたの購入した元金で売って下さい」と申し出たとします。そして彼が「私はこれを4500円で購入したのです」と言って、その男に売却したとします。このような場合、もしその男が売人の嘘を知ったら、契約を解除する権利を行使することが出来ます。

尚この権利はタウリヤ[3]と割り増し売買[4]、差し引き売買[5]と共同売買[6]において発生するもので、そのいずれの場合でも契約者は両者共に商品の元の額‐つまり売る側の者がそれを購入した値段‐を知っておかなければなりません。

8-購入者が経済的に厳しい状況にあったり、あるいは代金の支払いを出し惜しんで故意に遅延させたりするような者であることが判明した時に発生する契約解除の権利:このような場合、売る側は自らの財産の保護のため、契約解除の権利を有します。

 

     詐欺の危険性:

詐欺はあらゆる物事において、いかなる者に対しても、そしていかなるムアーマラート[7]においても禁じられています。つまりそれは専門職の分野であろうが、産業部門であろうが、あるいは契約や売買取引の中であろうが、非合法なのです。それというのも詐欺は嘘と騙りであり、人々の間に憎しみや争いを生じさせるからなのです。

アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:「私たちに向かって武器を構える者は、私たちの内の者ではない。そして私たちに詐欺を働く者は、私たちの内の者ではない。(ムスリムの伝承[8]

     イカーラ(契約における失敗について大目に見ること)とは:結んだ契約を破棄し、契約者を両者共に契約前の状態に戻すことです。あるいは契約前の状態との間に、多少の誤差を生んでも構いません。

 

     イカーラの法的位置づけ:

売った側であれ買った側であれ、取引を後悔している者に対してイカーラしてやるのはスンナです。またイカーラはそれを行う者にとってはスンナであり、その恩恵を被る者にとっては合法です。

契約者のいずれかが取引を後悔している場合や、購入者にとって商品の必要がなくなった時、あるいは購入者が商品の代金を支払うことが出来ないような場合にイカーラを行うことが出来ます。

     イカーラは、ムスリム同胞がそれを必要としている時に施す善行の1つです。預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はこう言って、イカーラを励行しました:「ムスリムを(契約における失敗において)イカーラする者は、アッラーによって審判の日、その失敗を大目に見て頂けるであろう。」(アブー・ダーウードとイブン・マージャの伝承[9]

 


[1] サヒーフアル=ブハーリー(2079)、サヒーフ・ムスリム(1532)。文章はアル=ブハーリーのもの。

[2] 訳者注:サーアはマディーナの計量単位の1つで、果実や種子・穀物類などに用いられます。1サーア(約2.4kg)は4ムッドに相当します。

[3] 訳者注:「タウリヤ」とは、売人がある商品を購入したのと全く同じ値段で、彼からそれを購入する形の売買のことを指します。

[4] 訳者注:売る側が商品と彼がそれを購入した値段を述べ、それから「あなたにこれを、私が購入した額に20%の利益を割り増した値段で売ります」といった風に言うことです。

[5] 訳者注:売る側が商品と彼がそれを購入した値段を述べ、それから「あなたにこれを、私が購入した額から10%差し引いた値段で売ります」といった風に言うことです。

[6] 訳者注:買う側が商品を手にし、「あなたが買った物の半分、あるいは25%を共同所有します」といった風に言うことです。

[7] 訳者注:ムアーマラートとは、社会法などに代表される人間と人間の間の諸々の取り決めなどを指していう言葉です。一方一般的に言う崇拝行為など、アッラーと人間との間の諸々の取り決めを取り扱う分野は、イバーダートいう名称によって括られます。

[8] サヒーフ・ムスリム(102)。

[9] 真正な伝承。スナン・アブー・ダーウード(3460)、スナン・イブン・マージャ(2199)。文章はイブン・マージャのもの。

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