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いかなる形であれ、横領は非合法です。何者も他人の所有物を勝手に取ることは許されません。ここでは横領についての様々な法規定を見ていきましょう。

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17横領

 

     横領とは:動産であれ不動産であれ、力をもって他人の財産を奪い取ることです。

     不正の種類:

 不正には3種類あります:①アッラーがそのまま放置されることのない不正、そして②赦されることもある不正、そして③赦されることのない不正、の3つです。

       アッラーがそのまま放置されることのない不正とは:アッラーが報復を定められたところの、しもべ同士の不正のことです。

       赦されることもある不正とは:しもべ自身とその主のみが知るような不正のことです。

       赦されることのない不正とは:アッラーに対してシルク[1]を行うことです。アッラーはシルクの罪を決してお赦しにはなられません。

     横領の法的位置づけ:

横領は非合法です。自ら進んでそうするのでなければ、いかなる場合であれ何者も他人の所有物を取ることは許されません。

1-至高のアッラーはこう仰られました:-そしてあなた方の財産を、不正に貪り合ってはならない。またそれと知りながら罪深くも他人の財の一部を奪おうとして、統治者に偽りの証言を立てたりしてもならない。,(クルアーン2188

2サイード・ブン・ザイド(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「私はアッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)が、こう言うのを聞きました:“1シブル[2]ほどであっても不当に土地を奪った者は、審判の日に7層の大地(ほどの重さの罪)を首に課せられるであろう。”(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[3]

     横領した土地に生った作物に関して:

1-横領した土地に作物などを植えたり建物などを建築したりした場合、本来の所有者がそう要求するのならば、横領した者はそれらを排除しなくてはなりません。またそれによって生じた何らかの欠如や荒れた土地の平坦化などについても、横領した者がその保障義務を負います。

但しそれらの変化や増減に関し、本来の所有者が横領した者との間でその価値に見合った代替物をもって合意することも可能です。

2-もし土地を横領した者がそこに何かを植え、それを収穫した後にその土地を元の所有者に返還した場合、収穫物は横領した者の所有となりますが、その間の土地賃貸料は所有者に払わなければならなくなります。

一方もし作物がまだ収穫されていない場合、所有者はそれをそのまま収穫期まで放っておいて横領者から土地賃貸料を要求するか、あるいは彼に賃金を払ってそれを自分の所有とするかのいずれかを選択することが出来ます。

     横領品の返還に関して:

何かを横領した者は、例えそうすることによって非常な損害を被ったとしても、横領した物を本来の所有者に返還しなければなりません。というのもそもそもそれは他人の権利であり、返還する義務があるからです

もし横領した者が横領した物によって商売し利益を得ていたら、それは本来の所有者との間で半分ずつ分け合わなければなりません。

またもし横領した物が賃貸の対象であったら、横領した者はそれを自分の手元においていた期間分の賃貸料も含めて元の所有者に返還する義務があります。

     横領品が変化してしまった場合:

もし横領した糸を裁縫に用いてしまったり、また衣服を短くしてしまったり、あるいは木片を大工作業に使用してしまったような場合、横領した者はそれを本来の所有者に返還し、更に不足分は弁償しなければなりません。

     横領品が別の物と混じってしまった場合:

横領した物が、見分けのつかなくなるような別の物‐油に同様の油を混合させるとか、米に同様の米を混合させるとかいった具合に‐と混じり合ってしまった場合、もしその価値に変化がなかったようなら、元の所有者はそこから自分の取り分だけ取り戻します。しかしもし混合によってその物の価値が下がってしまった場合は、横領した者がその分の補償をしなければなりません。また逆に混合によって価値が増したような場合、その増加分は横領した者の権利となります。

     横領品に損失が生じた場合:

横領品に損失や欠損が生じた場合、横領した者はそれと同様の物を弁償しなければなりません。もし同様の物が見つからないような場合には、その時点でのその物の価値でもって償います。

     横領した者の横領品に対する取り扱いに関して:

横領した者が横領品に対して行った売買、婚姻、ハッジ(大巡礼)などの行為は、本来の所有者の許可いかんによって決定されます。それで本来の所有者がその行為を認めればそれは正当なものとなりますし、そうしなければその行為は無効となります。

     横領品に関する異論が生じた場合、どちらの言明を受け入れるか:

横領後に損失が生じた横領品の価値や量、形質に関して異論が生じた場合、本来の所有者側に明白な証拠がない限り、横領した側の言明が考慮されます。但しその際に彼は誓いを立てなければなりません。

一方横領品が何の損失もなく返還された場合には、何らかの明白な証拠がない限り、本来の所有者の言明が考慮されます。

     所有物を喪失させてしまったような場合:

 1-横領した者が箱やドアや栓を開けたり、あるいは縛ってある物を外したり拘束してある物を放したりした時にその物が喪失したり損害を被ってしまったりしたような場合、彼はその補償義務を負います。というのも彼がその損失の原因となったからです。

 2-横領した者が狂犬やライオン、狼や猛禽類などを放し、それによって何か他の物に損害を与えてしまったような場合、彼がその補償義務を負います。

     家畜が損失を与えてしまったような場合:

家畜が他人の農作物に被害を与えてしまったような場合、もしそれが夜であったなら、家畜の主がその弁償をしなければなりません。というのも夜には本来家畜の主は、それを拘束しておくべきであるからです。

一方もしそれが昼間であったのなら、家畜の主に弁償の義務は発生しません。というのも昼間は農作場の主がその管理をするべきであるからです。但し家畜の主の側に落ち度があった場合は別で、その場合は彼に弁償の義務が生じます。

     横領品を返還するにあたって:

1-横領した物を返還しようとしたのに本来の所有者がそれを認知しなかった場合、横領品は統治者や裁判官[4]‐宗教を遵守し常識を備えた者であることが条件になります‐に預けるか、あるいは本来の所有者のサダカ(施し)という意味でそれを施します。

そしてもし横領した者がそれを勝手に施してしまった後に本来の所有者が横領品のことを思い出し、かつそれを返すよう要求した場合、彼はその弁償をしなければなりません。

2-横領した者の手元に持ち主不明の横領品や盗難物、信託物や預け物、また抵当などがある場合、以下の選択が考えられます:

       それでもってサダカ(施し)をする。

       ムスリムの福利のために利用する。

       信頼のおける統治者や裁判官に預ける。

     非合法な財産について:

酒類の売買などで非合法な財産を得、その後にその行いから悔悟したような場合、もし悔悟する前にそのような行いの非合法性に無知であったのなら、その財産を得ることは許されます。

しかしもし悔悟する以前にその行いが非合法であることを知りつつ行っていたのなら、その財産を所有することは許されません。そしてその財産は何かよいことに費やすようにします。

     非合法な物に損失を与えてしまった場合:

他人が所有する楽器や酒杯、不埒で破廉恥な本や魔術の用具などは、例え損害を与えてしまっても弁償義務を問われません。というのもそれらはそもそも非合法であり、売買すら許されないからです。

但し社会の福利の保護と災難の回避という意味からも、そのような物の処分は統治者の命令と監視のもとに行わなければなりません。

     火による損失に関して:

自分の所有物に火をつけて燃やしている時、それが彼の落ち度によって他人の所有物に燃え移って被害を与えてしまったような場合、彼はその責任を負わなければなりません。

但し不慮の強風などによる場合はこの限りではなく、補償義務は問われません。というのもそれは彼の行いでもなければ、彼の落ち度でもないからです。

     車両用の公道で家畜がはねられてしまった場合:

家畜が舗装された車両用の公道に侵入し、車にはねられて死んでしまったような場合、それをはねてしまった者に補償義務は問われません。但しその者がそこにおいて何らかの義務の遂行‐つまり交通標識の遵守など‐をおろそかにしたりせず、またすべきではないこと‐速度の出し過ぎなど‐も行ったりはしていなかったことが条件となります。一方家畜の主はその家畜の面倒を怠って車両用の公道に侵入させてしまったことにおいて、罪を犯したことになります。

     横領物に関して:

横領した者は横領品を所有することはもちろんのこと、それを利用することも禁じられます。そして他の全ての不正事と同様に、それを本来の権利者のもとに返さなければなりません。

アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「同胞に対し、その名誉やその他のあらゆることにおいて何らかの不正を働いている者は、金貨も銀貨も(益することが)なくなってしまう前の今日この日の内に、そこから身を引くのだ。(他人に不正を働き、それをやめる前に審判の日を迎えてしまった者の内、現世において)何かよい行いがあった者は、その不正の度合いに応じてそれを取り上げられる。そしてもし何もよいことがなかったのなら、不正を働いていた者の悪行が取り上げられ、それが彼に課されるのだ。」(アル=ブハーリーの伝承[5]

     人は他人から生命や財産を脅かされた場合、自己防衛をする権利があります。

アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「ある男がアッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)のもとにやって来て、こう言いました:“アッラーの使徒よ、もし誰かがやって来て私の財産を奪おうとしたら(どうするべきですか)?” (預言者は)言いました:“それを渡すのではない。”(男は)言いました:“それでは私を殺そうとしたら?”(預言者は)言いました:“戦うのだ。”(男は)言いました:“それでもし私が殺されたら?”(預言者は)言いました:“あなたは殉教者となる。”(男は)言いました:“それではもし私が彼を殺してしまったら?”(預言者は)言いました:“彼は(地獄の)業火行きである。”(ムスリムの伝承[6]

 


[1] 訳者注:詳しくは「タウヒードとイーマーン」の章のシルクの項を参照のこと。

[2] 訳者注:手を広げた親指の先から小指の先までの長さの単位。

[3] サヒーフアル=ブハーリー(3198)、サヒーフ・ムスリム(1610)。文章はアル=ブハーリーのもの。

[4] 訳者注:イスラーム法で裁く統治者や裁判官のことです。そのような機関が存在しない非ムスリム国や地域に居住するムスリムは、そこにおけるイスラーム的権威である学者やイマームなどに依拠することになります。

[5] サヒーフアル=ブハーリー(2449)。

[6] サヒーフ・ムスリム(140)。

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