命に対する血債 ()

ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

 

血債とは傷害や殺人ゆえに、その被害者あるいは遺族に渡される財産のことです。
    命に対する血債

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    報復刑

    4命に対する血債

    ] 日本語 [

    القصاص – دية النفس

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    4-命に対する血債

    ● 血債とは:傷害や殺人ゆえに、その被害者あるいは遺族に渡される財産のことです。

    ● ムスリムの血債:

    ムスリムの血債額は、ラクダ100頭です。もしその値段が高騰した場合は、その代替物とします:

    ウマル・ブン・アル=ハッターブ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、彼は説教台に立ってこう言いました:「“・・・本当にラクダの値段は高騰した。”そして彼は(その代替物として)、金を所有する者には1000ディーナール[1]、銀を所有する者には1200、牛を所有する者には雌牛200頭、羊を所有する者には羊1000頭、衣服を所有する者には衣服200着と定めました。そしてズィンミー[2]の血債に関しては、血債の高騰に合わせて上げませんでした。」(アブー・ダーウードとアル=バイハキーの伝承[3]

    ● 血債の本来の形はラクダです。その他の種類の物は全てその代替物に過ぎません。

    ● ムスリム女性の血債の額:

     ムスリム女性の血債の額は、男性の半額です。

    ● 血債の法規定:

     血債は加害者が成年であるか未成年であるか、精神的に正常であるか異常であるか、犯行が故意であったか過失であったか、加害者がムスリムであるかそうでないか、あるいは犯行が直接的なものであったか間接的なものであったかを問わず、科せられます。

     傷害や殺人が故意であった場合、血債は加害者の財産から拠出されます。

     一方故意に準じるものや過失であった場合、血債は加害者の男系親族相続人に科せられ、その支払い期間は3年間となります。

     1-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“・・・そして身内を殺された者には、2つの選択肢がある:賠償をさせるか、あるいは(加害者に報復して)殺すか・・・”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[4]

     2-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、フザイル族の女性2人の一方がもう片方に(石を)投げ、そのお腹の中にいた胎児を殺してしまいました。そしてそれに関しアッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は、(その賠償額を)男あるいは女の奴隷1人としました。(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5]

    ● 啓典の民(ユダヤ教徒かキリスト教徒)の血債の額:

     彼らの内の男性の血債はムスリム男性の半額、女性はムスリム女性の半額です。これは生命に対する血債であろうと、あるいは器官の損傷や創傷に対する血債であろうと、また故意であろうと過失であろうと関係ありません。

    ● 啓典の民以外の非ムスリムの血債の額:

     彼らの内の男性の血債はムスリム男性の15分の1、女性はその半額です。

    ● 胎児の血債の額:

     その母親への傷害が理由で流産した胎児の血債は、奴隷男性あるいは奴隷女性1人です。その額はラクダ5頭分で、その母親の10分の1の血債額に相当することになります。

     また奴隷の血債は額の高低を問わず、その値段となります。

    ● 事故における血債:

     車の衝突事故などに関しては、その原因が運転手の業務上過失であった場合、それによって生じた全ての損害を保障しなければなりません。もしそれが理由で同乗者が死亡した場合には、その血債と贖罪も義務付けられます。

     一方正常だったタイヤの突然のパンクなど、運転手の業務上過失に起因するわけではない交通事故による損害に関しては、血債も贖罪も科されません。

    ● 血債が科される者:

     血債は以下の3種の者の内のいずれかに科されます:

     1-加害者本人:故意の殺人の際に、被害者の遺族が報復刑の執行を免じた場合、血債は加害者本人の財産に科されます。

     2-加害者の男系親族相続人:故意の殺人に準じる場合と、過失の殺人の場合です。

     3-イスラーム国の国庫。

     以下のような状況においては、債務や血債は国庫から拠出されます:

     1-ムスリムが債務を遂行しないまま死亡した場合。統治者[6]はそれを国庫から拠出して遂行します。

     2-故意の殺人に準じる形か過失による殺人を犯した者で、その血債を負担する能力を備えた男系親族相続人が皆無である場合、もし加害者本人にその能力があれば血債は彼に科されます。しかしもし加害者本人にもその能力がない場合は、血債は国庫から拠出されます。

     3-混雑やタワーフ[7]などの際の圧死などのように、加害者が不明だったりその特定が不可能であったりする場合、血債は国庫から拠出されます。

     4-裁判官が殺人の告発に関する誓願[8]の事例を取り扱うにあたり、被害者の遺族が宣誓をせず、また被疑者が宣誓をすることにも了承しなかった場合、統治者が国庫から被害者の血債を拠出します。

     5-統治者がその職務に関する範囲で犯した過ちにおいて科された血債は、国庫から拠出されます。

    ● イスラーム法に基づく国家的権威がその臣民を、または父親がその子を、あるいは教師が子供の生徒を処罰した際に何らかの傷害を被らせてしまった場合、それが節度を越えたものでなかった限りにおいて、彼らには何の責任も問われません。

    ● 責任能力のある者を雇用して穴を掘らせたり、または木に登らせたりするかどでその者が事故死してしまった場合、雇用者に責任は問われません。

    ● ズィンミー[9]の殺人に関して:

     ズィンミーであろうと、イスラーム国家と安全条約や休戦条約などを結んでいる非イスラーム国の出身者であろうと、またはイスラーム国に一定期間滞在する許可を得ている者であろうと、殺人は等しく禁じられます。そして彼らを殺害することは以下の預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の言葉通り、非常に大きな罪と見なされます:

     「安全条約を結んでいる者を殺める者は、天国の香りを嗅ぐことはないであろう。そしてその香りは40年の距離の遠くからも届くものであるにも関わらず、である。」(アル=ブハーリーの伝承[10]

    ● 加害者が他界した場合、血債はどうなるか?

    他人を故意に殺害した後他界した場合、報復刑は失効します。そして被害者の遺族の血債に対する権利のみが残ることになります。

    [1] 訳者注:1000ディーナールは、約4250gに相当します。

    [2] 訳者注:ジズヤ税を支払い、その諸規定を遵守することを条件に、イスラーム法治国家に居住するムスリム以外の啓典の民あるいは非ムスリムのこと。

    [3] 良好な伝承。スナン・アブー・ダーウード(4542)、アル=バイハキー(16171)。イルワーウ・アル=ガリール(2247)参照。

    [4] サヒーフ・アル=ブハーリー(6880)、サヒーフ・ムスリム(1355)。文章はムスリムのもの。

    [5] サヒーフ・アル=ブハーリー(6904)、サヒーフ・ムスリム(1681)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [6] 訳者注:イスラーム法で裁く統治者のことです。

    [7] 訳者注:「タワーフ」は巡礼(ハッジとウムラ)の諸義務行為の内の1つで、それ以外の時にも推奨されます。アッラーを崇拝するためにカアバ神殿の周囲を7回逆時計回りに廻ります。

    [8] 訳者注:詳しくは「2殺人の種類」の「②故意の殺人」の項を参照のこと。

    [9] 訳者注:ジズヤ税を支払い、その諸規定を遵守することを条件に、イスラーム法治国家に居住するムスリム以外の啓典の民あるいは非ムスリムのこと。

    [10] サヒーフ・アル=ブハーリー(3166)。