裁量刑

概要

裁量刑とは、固定刑も報復刑も贖罪も定められてはいない罪に対する、イスラーム法によって具体的な内容が定められてはいないような刑罰のことです。

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Detailed Description

    固定刑

    8裁量刑

    ] 日本語 [

    التعزير

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    8-裁量刑

    ● 裁量刑とは:固定刑も報復刑も贖罪も定められてはいないような罪に対する、イスラーム法によって具体的な内容が定められてはいないような刑罰のことです。

    ● 犯罪に対する刑罰には3種類あります:

     1-姦淫や窃盗、故意の殺人などのように固定刑が科されるもの:この類のものには贖罪も裁量刑も科されません。

     2-イフラーム[1]の状態にある時やラマダーン月[2]昼間の性交、あるいは過失の殺人などのように、固定刑はなく贖罪のみが科される類のもの。

     3-固定刑も贖罪も科されないようなもの:そして裁量刑が科されるのは、この類のものなのです。

    ● 裁量刑が定められたことに潜む英知:

     偉大かつ荘厳なるアッラーは、宗教や生命、財産や尊厳、理性の保護といった社会の根本的要素を損ねるような犯罪に対し、その回数や量において任意の増減を許されない固定された刑罰を定められました。この厳しい固定刑が定められたのは、上記の諸要素を保護するために他なりません。そして固定刑の実施なくしてはそれらを完全に保護することは叶わず、またそれらの保護なくしては社会の存続は不可能なのです。

     そしてこの固定刑には、いくつかの条件と規則があります。そしてもし固定刑の条件のいくつかが揃わないような場合、刑罰は既定された固定刑から、統治者[3]が任意に定める非既定のものへと移転します。そしてこれが裁量刑なのです。

    ● 裁量刑の法的位置づけ:

     裁量刑は、禁じられた行為の遂行か義務行為の放棄かを問わず、固定刑も贖罪も科されてはいないような全ての犯罪と反逆的行為において義務となります。禁じられた行為の遂行に関しては、固定刑の科されない非合法な性交渉や、切断刑の適用されない窃盗罪、また報復刑が適用されない傷害罪や女性同士の同性愛行為、また姦淫ではないことに関しての誤った告発による名誉毀損などが挙げられます。一方義務行為の放棄としては債務の踏み倒しや、委託物や信託に関する義務の不履行、また横領物の返還拒否や犯した不正に対しての償いを行わないことなどが挙げられます。

     また固定刑の科されないような罪を犯した後に、自らの過ちを悔やんで改悛する者に関しては裁量刑に科されません。

    ● 裁量刑の区分:

     裁量刑は2種類に分けられます:

     1-懲戒や教育指導的意味における裁量刑:犯罪以外のことに関して、父が子供に、または夫が妻に、あるいは主人が奴隷[4]に対して行う類のものです。これは鞭打ち10回以上のものとすることを、禁じられています。預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「アッラーの固定刑以外のことに関しては、10回以上の鞭打ちをしてはならない。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5]

     2-罪に対する裁量刑:これに関しては、裁判官[6]は必要性と一般福利、罪の大きさや犯罪者の犯罪歴などを考慮に入れつつ、その裁量で上述の刑罰以上の形に定めることが出来ます。刑罰の上限はありませんが、姦淫罪や窃盗罪などのように既にアッラーによって決定されている罪に関する犯罪であった場合、その裁量刑は固定刑で定められているものと同等かそれ以上にまで達してはなりません。

    ● 裁量刑の種類:

     裁量刑は様々な種類の刑罰から成り立っています。その最も初期的段階のものが忠言や訓戒であり、それから疎遠化や叱責、警告や後見の義務の放棄へと移り、そして拘禁刑や鞭打ち刑といった更に厳しい罰へと達します。そしてもしスパイや宗教改竄、非常に凶悪な犯罪など一般福利がそう要求する類の犯罪である場合には、裁量刑が死刑に達することもあり得ます。

     また裁量刑は見せしめや罰金、追放などの形をとることもあります。

    ● 裁量刑による刑罰:

    裁量刑の刑罰は定められていません。ゆえにアッラーが命じられかつ禁じられた範囲において、そして前述の条件に沿う形で、裁判官がその犯罪に対して適当であると判断した刑罰を定めます。そしてその内容は場所や時代、人や罪の種類、そして状況によって様々に変化します。

    ● 自分が犯した罪を悔やんでいる者の罪滅ぼし:

    イブン・マスウード(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のもとに(自分にとって合法ではない)女性にキスしてしまった男がやって来て、彼にその旨を伝えました:「するとアッラーはこのクルアーンの句を啓示されました:-そして昼の両端と夜の初めのサラー(礼拝)を守るのだ。善行は悪行を放逐する。,(クルアーン11:114)男は言いました“アッラーの使徒よ、これは私の場合だけですか?”(預言者は)言いました:“(いや、)私の共同体の全ての者(に言えること)である。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[7]

    [1] 訳者注:「イフラーム」とはハッジにせよウムラにせよ、巡礼の儀の開始をニーヤ(意図)することです。

    [2] 訳者注:ヒジュラ暦9月のこと。いわゆる断食月。

    [3] 訳者注:イスラーム法で治める統治者のことです。

    [4] 訳者注:イスラームは奴隷の存在に対して積極的なわけではなく、むしろ奴隷になった者たちの解放を折に触れて奨励しています。詳しくは「4-ムアーマラート」の章の26「奴隷の解放」の項を参照のこと。

    [5] サヒーフ・アル=ブハーリー(6850)、サヒーフ・ムスリム(1708)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [6] 訳者注:イスラーム法で裁く裁判官のことです。

    [7] サヒーフ・アル=ブハーリー(526)、サヒーフ・ムスリム(2763)。文章はアル=ブハーリーのもの。

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