窃盗に対する固定刑

概要

イスラームは財産の保護を命じ、その権利の侵害を禁じました。ゆえに窃盗は無論のこと、強奪や略奪や横領など他人の財産を不当に入手することは全て禁じられています。

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Detailed Description

    固定刑

    5窃盗に対する固定刑

    ] 日本語 [

    حد السرقة

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    4-窃盗に対する固定刑

    ● 窃盗とは:人目を忍びつつ、他人の尊重に値する財産[1]をその特定の保管場所から特定の量だけ奪うことです。尚その窃盗行為において疑念の余地がある場合[2]は、窃盗とは見なされません。

    ● 窃盗の法的位置づけ:

     1-窃盗は禁じられており、大罪[3]の1つに数えられます。

     2-イスラームは財産の保護を命じ、その権利の侵害を禁じました。ゆえに窃盗は無論のこと、強奪や略奪や横領など他人の財産を不当に入手することは全て禁じられています。

    ● 窃盗に対する固定刑が定められたことに潜む英知:

    アッラーは財産を、窃盗犯の手の切断刑という刑罰によって保護されました。欺瞞に満ちた手は危険な病に感染した器官同様と見なされ、体全身を守るために切断するのです。また窃盗犯の手が切断されることは、人に他人の財産を盗むという罪に関して熟慮する機会を与え、また窃盗犯自身にとってはその罪滅ぼしとなります。またこの固定刑が執行されることにより社会に平和と安寧が深く根を下ろし、社会の財産が守られるのです。

    アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はこう言いました:「姦淫を犯す者は、ムウミン(イーマーンの徒)[4]である状態の時に姦淫する事はない。また飲酒を犯す者は、ムウミン(イーマーンの徒)である状態の時に人が飲酒することはない。また盗人はムウミン(イーマーンの徒)である状態の時に盗みを犯すことはない。そして人はムウミン(イーマーンの徒)である状態の時に、人々が目を見開くような(価値のある)物品を略奪することはないのだ。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5]

    ● 窃盗犯への刑罰:

    1-至高のアッラーは仰られました:-男女の窃盗犯は、彼らが成したことの報いゆえ、そしてアッラーの懲罰ゆえ、その手を切断するのだ。アッラーは威光高く、この上なく英知溢れるお方。しかしその不正の後に悔悟し、(そのような行いを繰り返すことなく)行いを正す者に関しては、アッラーはその悔悟を受け容れて下さるであろう。実にアッラーはお赦し深く、慈悲深いお方であられる。,(クルアーン5:38‐39)

    2-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“アッラーは窃盗する者をお呪いになられる。卵1個でも窃盗を働いた者はその手を切られ、そして縄1本でも窃盗を働いた者はその手を切られるのだ。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[6]

    ● 窃盗犯の手の切断刑の条件:

     以下の条件が満たされたら、窃盗犯の手を切断刑に処さなければなりません:

     1-ムスリムであろうとズィンミー[7]であろうと窃盗犯に責任能力があり(つまり成人で正常な理性を備えていること)、また自分の選択によってその犯罪を行ったこと。

     2-盗難品が尊重に値する財産であること:ゆえに、楽器や酒類の窃盗では切断刑は執行されません。

     3-盗難品が、4分の1金ディーナール[8]以上の価値であること。

     4-あくまで財産や物品を、こっそりと隠れて盗んだこと。もし強奪や略奪や分捕りなどの場合、切断刑ではなく裁量刑が科されることになります。

     5-盗難品をその保管場所から取り、持ち出したこと:ちなみに保管場所はその地域や時代の習慣により異なりますし、また財産の種類によってもその保管場所は違ってくるでしょう。しかし一般的なところでは家宅や銀行、店や家畜小屋などといった場所です。

     6-窃盗行為に疑念の余地がないこと:つまり両親とその尊属、あるいは子供とその卑属の財産に関する窃盗では切断刑は執行されません。また夫婦間の場合も同様です。加えて、飢餓状態にある場合の窃盗にも切断刑の執行はありません。

     7-被害者が切断刑の執行を主張すること。

     8-尚窃盗罪は以下のいずれかによって確証されます:

    ①  窃盗犯が2回自認すること。

    ②  宗教を遵守し常識を備えた男性2人が、その者の犯行を証言すること。

    ● 窃盗罪が確証された結果、起こること:

     1-窃盗犯には2つの義務があります:1つは個別の義務であり、すなわち‐もし存在しているのなら‐盗難品そのものか、または‐もし盗難品が存在していなかったり、損害を受けていたりした場合‐それと同様の物、あるいはその金額の返還です。一方もう1つの義務は一般的なものであり、つまりアッラーに対する義務です。要するに上記の条件が完全に満たされれば手の切断刑の執行であり、もし一部の条件が揃わなければ裁量刑の執行です。

     2-手の切断刑が決定したら、その場合右手の手首からの切断となります。切断したらすぐ切断部を煮え立った油か、止血作用のある液体に漬けます。また盗難品はそのものか、あるいはその代替物を所有主に返還しなければなりません。窃盗罪は裁判官[9]のもとで確証されたら最後、切断刑の執行における執り成しを禁じられます。

     3-もし窃盗の前科がある者が再度犯行を犯した場合、今度は左足を足の甲の真ん中から切断します。また更に犯行を犯した場合は、悔悟するまで拘束する裁量刑に処され、それ以上の切断刑はありません。

    ● 人のポケットなどを切ったりして気付かれないように金銭などを盗む、いわゆるスリなども、もし盗難品が一定の額以上に達すれば切断刑の対象となります。ポケットなども、立派な財産の保管場所であると見なされるからです。

    ● 窃盗罪と認定される盗難品の価値:

     盗難品が4分の1金ディーナール[10]以上の価値でなければ、窃盗罪とは見なされません。

     アーイシャ(彼女にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「4分の1ディーナール以上(の財産の窃盗)に、手の切断が科される。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[11]

    ● 固定刑は疑念の余地があれば執行されない:

     窃盗犯の被疑者が犯行を認めたにも関わらず、盗難品が彼のもとに見つからなかったような場合、裁判官は彼に自白の撤回を勧めることが出来ます。それでも彼が自白を撤回しなければ、切断刑が科されます。しかしもし一旦犯行を自白しても後にそれを撤回するならば、切断刑は実行されません。というのも固定刑は、犯行に少しなりとも疑念の余地が挟まれることがあれば実行されないからです。

    ● 国庫からの窃盗に関して:

     国庫から窃盗した者には、裁量刑によって盗んだ額の倍の罰金が科され、切断刑は適用されません。というのも国民には多少なりとも、国庫に対してその割り当てを受領する権利があるからです。戦利品などについても同様のことが当てはまります。

    ● 借り物を自分の所有物と主張する者に関して:

     他人から借りた物を自分の所有物であると主張し、本来の所有者の所有権を否定する者に関しても、切断刑が適用されます。これもまた窃盗の1種であるからです。

     アーイシャ(彼女にアッラーのご満悦あれ)によれば、マフズーム部族のある女性が日用品を借りたまま、それを自分の物と主張して返しませんでした。それで預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は、彼女の手の切断刑を命じました・・・。(ムスリムの伝承[12]

    ● 盗難品に関して:

     窃盗犯が、紛失したか損なわれたりした盗難品を、本来の所有主に別の形で責任をもって返却するのは、その悔悟の真摯さの表れです。そしてもしそれが彼にとって容易な額の物であればすぐ支払いますが、もし彼が困難な状況にあればひとまず支払いを猶予してやります。

     一方もし盗難品そのものが存在している場合、それを所有主に返却するのは正しい悔悟の条件の1つです。

    ● 麻薬以外で覚醒効果や弛緩効果のある物質の摂取に関して:

    窃盗罪や姦淫罪、飲酒罪を犯した者でも、裁判官のもとで刑が確定する前に悔悟した者は、刑を執行する必要がなくなります。ゆえにアッラーが隠して下さったことを、敢えて自ら露にすることは義務ではありません。しかしもし窃盗を犯している場合、それは本来の所有主に返却する必要があります。

    [1] 訳者注:「尊重に値する財産」の定義については、この章の中で後述します。

    [2] 訳者注:これについても詳細は後述します。

    [3] 訳者注:「大罪(カビーラ)」とは、それに対し現世において刑罰が適用されたり、あるいはそれを犯すことで来世において地獄を警告されていたり、またアッラーのご慈悲からの放逐やかれのお怒りを招くこととされているものです。例としてはシルクや殺人、ズィナー(姦淫)や魔法、リバー(不法商取引)、親不孝、嘘の誓いなどがあります。

    [4] 訳者注:詳しくは「1-タウヒードとイーマーン」の章の「イーマーンとイーマーンの諸特質」の項を参照のこと。

    [5] サヒーフ・アル=ブハーリー(2475)、サヒーフ・ムスリム(57)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [6] サヒーフ・アル=ブハーリー(6799)、サヒーフ・ムスリム(1687)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [7] 訳者注:ジズヤ税を支払い、その諸規定を遵守することを条件に、イスラーム法治国家に居住するムスリム以外の啓典の民あるいは非ムスリムのこと。

    [8] 訳者注:1ミスカール(約1.0625g)に相当します。

    [9] 訳者注:イスラーム法で裁く裁判官のことです。

    [10] 訳者注:前出。

    [11] サヒーフ・アル=ブハーリー(6789)、サヒーフ・ムスリム(1684)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [12] サヒーフ・ムスリム(1688)。

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