20 - スーラト ター・ハー ()

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(1) 『ター・ハー』雌牛(第2)章冒頭で類似のものに関する解説は前述のとおりである。

(2) 使徒よ、われらがあなたにクルアーンを下したのは、心労を与え、あなたの民が信じようとしないことで悲しませるためではない。

(3) われらがそれを下したのは、畏怖できるようアッラーが成功させてくださった者への訓戒としてである。

(4) それを下したのは、大地を創造し、高々とした諸天を創造したアッラーである。それは偉大なクルアーンである。偉大なる御方から下されたからである。

(5) 慈悲深い御方は、かれの荘厳さに相応しい高みで玉座の上に高く昇られた。

(6) 完全無欠なかれだけにこそ、諸天にあるものも大地にあるものも土の中にいる被造物も、その生死も所有も計画もすべてある。

(7) 使徒よ、あなたが発言を公にしようとしまいと、完全無欠なかれはすべてをご存知であり、秘密はおろか胸中をよぎる思いなどの秘密よりも秘められたことを知っており、かれにとって不鮮明なことは何一つないのである。

(8) アッラー、かれのほかに正しく崇拝に値する存在はない。かれにのみ善良の極みたる名は相応しい。

(9) 使徒よ、あなたにはムーサー・ビン・イムラーン(平安あれ)の知らせが届いたはずである。

(10) 道中火を見つけ、家族に言ったときのこと。「ここにいなさい。火を見かけたから、灯火として持ってくることができるかもしれない、あるいは誰か道案内をしてくれる人を見つけることができるかもしれないから行ってくる。」

(11) そうして彼が火のところにやって来ると、完全無欠なるアッラーが「ムーサーよ」と呼びかけた。

(12) われはあなたの主である。われとの語らいに備え、履き物を脱げ。あなたは清らかな谷トゥワーにいるのだ。」

(13) 「ムーサーよ、われはあなたをわれのメッセージを伝えるために選んだのである。だからわれがあなたに啓示するものをしかと聴け。」

(14) 「われこそはアッラーであり、われのほかに崇拝に値するものはない。われだけを崇めよ。われを思い起こすために、完全なかたちで礼拝を捧げよ。」

(15) 本当にその時(清算の日の到来)は間違いなくやって来て現実のものとなる。われはそれをほとんどわからないものとし、被造物には誰にもその時はわからない。ただ、預言者の知らせによりその予兆は知っている者もいる。すべての魂が自分の行ったことの報いを良くも悪くも受けるのである。

(16) だからそれを信じようとしない不信仰者にあなたがそれを信じて善行による備えをすることから気を逸らせてはならない。禁じられたことを欲しても、それに従って身を滅ぼしてはならない。

(17) あなたの右手にあるものは何か、ムーサーよ。

(18) ムーサー(平安あれ)は言った。「それは私の杖です。歩くときの支えとしています。私の羊の餌に木の葉をそれで落とすこともあります。また他にも役立てていることがあります。」

(19) アッラーは仰せられた。「それを投げよ、ムーサーよ」

(20) そうしてムーサーがそれを投げると、それは蛇に変身し、素早く身軽に動き始めた。

(21) アッラーはムーサーに仰せられた。「杖を取れ。蛇に変わったのを恐れるな。あなたがそれを取れば、われらはそれを元のかたちに戻すだろう。

(22) あなたの手を懐に入れてから出せば、ハンセン病ではなしに真っ白な手となるのは、あなたにとっての二つ目の印である。

(23) ムーサーよ、われらがこれら二つの印をあなたに見せたのは、われらの全能さを示す偉大な印を見せるためであり、あなたがアッラーの御許より来る使徒であることの証なのである。

(24) ムーサーよ、フィルアウン(ファラオ)のもとへ行け。彼は不信仰とアッラーへの反抗で一線を越えてしまった。

(25) ムーサーは言った。「主よ、私が嫌がらせに耐えられるよう、どうか私の心を広くしてください。」

(26) 「私の事を容易くしてください。」

(27) 「正確な話ができるよう、私がきちんと発話できるようにしてください。」

(28) 「あなたのメッセージを私が伝えようとするとき、彼らが私の話を理解できるようにしてください。」

(29) 「私の家族から援助者をご用意ください。」

(30) 「私の兄弟、イムラーンの子ハールーンを。」

(31) 「彼を通して私を支えてください。」

(32) 「使命を負うことにおいて、彼を私の協力者としてください。」

(33) 「私たちがあなたを数多く讃えることができるように。」

(34) 「そしてあなたのことを数多く思い起こすことができるように。」

(35) 「本当にあなたは私たちを見てくださっており、私たちのことであなたにわからないことなど何もありません。」

(36) アッラーは仰せられた。「ムーサーよ、われらはあなたが求めたものを与えた。

(37) われらはあなたに再び恵みを与えたのである。」

(38) 「われらがあなたの母親に閃きを与え、ファラオの謀略からあなたを守るすべを閃かせたときのこと。

(39) われらは彼女に閃きを与えたときに命じた。「その子を産んだら、籠に入れて海に流すがよい。われらの命により、海がその籠を浜辺に打ち上げさせ、われにとってもその子にとっても敵であるファラオがその籠を拾い上げよう。われはその子にわれの愛を授けた。皆がその子を愛するだろう。そしてその子はわれの気配りと庇護と養育のもとに育つのだ。」

(40) あなたの姉が外に出て、籠の後をつけ、それを拾い上げた者に言ったときのこと。「その子の世話をして乳をやる人を紹介しましょうか?」そうしてわれらはあなたへの恩恵としてあなたを母親の元に返したのである。あなたが戻ったのを、あなたの母親はさぞかし喜んだことだろう。だから悲しんではならない。あなたがコプト教徒を殴って殺してしまったときも、あなたへの恩恵として罰から免れるようにしただろう。あなたが遭遇した試練のたびに、われらはあなたを救ってきたのである。また、あなたは外地に行きマドヤンの民のもとで何年も過ごした。そうしてムーサーよ、あなたは定められた時にあなたに話しかけられるようやって来たのである。

(41) われはあなたをわれの使徒として選んだのだ。われから啓示されたことを人々に伝えよ。

(42) ムーサーよ、あなたの兄弟ハールーンと一緒に、アッラーの御力と唯一性を示す印とともに行くがよい。われへのいざないとわれを思い起こすことにおいて、弱音を吐いてはならない。

(43) 二人でファラオのもとへ行け。彼は不信仰とアッラーへの反逆において度を越したのである。

(44) 彼に荒々しい言葉ではなく優しい言葉をかけよ。思い起こし、アッラーを恐れて悔い改めるかもしれないからである。

(45) ムーサーとハールーン(二人に平安あれ)は言った。「私たちが彼への働きかけを終える前に懲罰が急かされてしまうのではないか、あるいは彼自身が私たちを殺すなり何なりして一線を踏み越えてしまうのではないか心配です。」

(46) アッラーは二人に仰せられた。「恐れることはない。われはあなたたち二人とともにあり、支援と援助を与えよう。われはあなたたち二人と彼との間で何が起こるかを見聞きしている。」

(47) 彼のもとに行き、言うのだ。「ファラオよ、私たち二人はあなたの主の遣いです。私たちとともにイスラエルの民を遣わし給え。彼らの子どもたちを殺したり、女性を辱めたりしてはなりません。私たちが正しいことを言っている、主からの証となるものもあります。アッラーのお導きを信じて従う人は、アッラーの懲罰から安泰でいられるでしょう。

(48) アッラーが私たちに啓示されたのは、この世とあの世での懲罰はアッラーの多くの印を否定し、使徒たちがもたらしたものを拒んだ人にあるということです。」

(49) ファラオは二人がもたらしたものを否定して言った。「ムーサーよ、お前たちが遣わされたと主張するお前たちの主とは一体誰だ?」

(50) ムーサーは言った。「私たちの主とは、すべてのものに相応しい姿かたちを与え、生きとし生けるものをその存在の目的にそって導かれる御方。」

(51) ファラオは言った。「不信仰のまま過ぎ去った以前の民はどうなるというのだ。」

(52) ムーサー(平安あれ)はファラオに言った。「そうした以前の民がどうだったかについては私の主が知っておられます。守護された碑版にしかと記されており、私の主が間違えることや忘れることはありません。

(53) (その碑版は)あなたたちのために大地を住みやすくされた私の主の御許にあります。かれこそその大地に歩きやすい道を用意され、天からは雨を降らし、その雨から様々な植物を茂らせた御方。」

(54) 人々よ、われらが茂らせたよいものを食べ、家畜を飼育せよ。本当にそうした恩恵の中には、アッラーの御力や唯一性を示す様々な証拠が理性ある者たちにとってはあるのである。

(55) 大地の土からわれらはあなたたちの父アーダム(平安あれ)を作り、あなたたちが死ねばわれらがまたそこに戻し、清算の日には復活のためにまたそこからあなたたちを出すのである。

(56) ファラオにはわれらの九つの印を確かに明らかにしたが、彼はそれらを見ておきながら否定し、アッラーへの信仰に受け答えず拒絶したのである。

(57) ファラオは言った。「ムーサーよ、お前がやって来たのは、お前の魔術でわれをエジプトから追い出し、エジプトの王国を自分のものにしようというのか。」

(58) ムーサーよ、我らはお前と同じような魔術を用意するから待ち合わせの時と場所を決めよ。我らもお前も遅れるではないぞ。場所は我らとお前たちの側の中間点とせよ。

(59) ムーサーはファラオに言った。「私たちの間の約束の日は、皆が暁の時間に祝うために集まる祭日としましょう。」

(60) そうしてファラオは背を向けてその場を立ち去り、念入りに策略を巡らせて、勝利すべく約束の時と場所にやって来た。

(61) ムーサーはファラオの魔術師たちに勧告して言った。「お気をつけください。人々を魔術で惑わすようにアッラーに対して嘘をでっち上げるようなことはなさらないように。そんなことをすれば、あなたたちはかれに罰せられてしまうでしょう。アッラーに対して嘘をつく人は滅びるしかないのです。」

(62) 魔術師たちはムーサーの話を聞いて意見し合い、ひそひそ話をし始めた。

(63) ある魔術師たちはお互いに小声で言った。「ムーサーとハールーンは魔術師だ。あやつらは君たちをエジプトから追い出し、君たちの権益や地位を奪おうとしているのだ。

(64) だから皆で力を合わせ、自分勝手なことをしてはならない。選りすぐりの者を選出し、皆で一斉に術を繰り出せば、相手に打ち勝つという今日の目的を達成できるはずだ。」

(65) 魔術師たちがムーサー(平安あれ)に言った。「ムーサーよ、二つのうち一つを選ぶのだ。お前から魔術を始めるか、我々から始めるか。」

(66) ムーサーは言った。「まずはあなたたちから始めてください。」そうして彼らが手元にあったものを投げると、紐や杖がムーサーには彼らの魔術で素早く動く蛇に見えた。

(67) ムーサーは彼らがしたことへの恐れを見せまいとした。

(68) アッラーがムーサーを励ますように仰せられた。「あなたに見えたものを恐れるではない。ムーサーよ、あなたこそ彼らを打ち負かして上に立つ者である。

(69) あなたの右手にある杖を投げよ。蛇となり魔術師たちがなしたものを一飲みにしてしまうだろう。彼らがなしたのは見せかけの魔術に過ぎない。どこにおいても、魔術師が望むものを得ることはないのである。」

(70) ムーサーが杖を投げると、蛇に変わって魔術師たちがなしたものを一飲みにした。魔術師たちはムーサーがするのはアッラーの御業であって魔術ではないことを知り、アッラーに向かって跪拝した。「ムーサーとハールーンの主、生きとし生けるものすべての主を信じます。」

(71) ファラオは魔術師たちの信仰を否定しつつ、脅しながら言った。「我が許可する前にお前たちはムーサーを信じたというのか!?ムーサーこそがお前たち魔術師の頭領でお前たちに魔術を教えたのだろう。必ずやお前たち一人ひとりの手足を引きちぎり、他の者たちへの見せしめにナツメヤシの根元に磔にしてやろう。そこでお前たちは知るのだ。我とムーサーの主のどちらがより力強く、より生き永らえるかを。」

(72) 魔術師たちはファラオに言った。「ファラオよ、私たちが目の当たりにした明らかな印よりもお前に従うのを優先することはない。私たちをお創りになったアッラーよりもお前を優先することはないのだ。好きにすればよい。お前が私たちをどうこうできるのは儚いこの世だけの話であり、お前の権力など消えてなくなるのだ。

(73) 私たちは主を信じる。願わくは過去の不信仰や罪を帳消しにしてくださり、お前が私たちに無理やり学ばせて専門とさせ、ムーサーに勝たせようとした魔術の罪を打ち消してくださいますように。アッラーこそがお前が約束した報奨よりも素晴らしい報奨を与えてくださり、お前が警告した懲罰よりも永続する恐ろしい懲罰を与えられるのだ。」

(74) 実に、主を信じないまま清算の日にやって来る者は、火獄に入れられて永遠にそこに住まうことになり、死んで懲罰から解放されることもなく、心地よい生を楽しむこともできないのである。

(75) 一方、主を信じて善行をなしつつ清算の日に主の御許へやって来る者は、彼らこそ立派な形容をされている者たちであり、彼らには高い地位と位階がある。

(76) そうした位階こそ城の下を小川が流れる天国であり、永遠にそこに留まることができる。不信仰や罪から清められた者皆が得られる報奨なのである。

(77) われらはムーサーに啓示した。「誰にも気付かれないように夜の間にわが僕たちを引き連れてエジプトを出立せよ。杖で海を突き、海の中に乾いた道を作るのだ。ファラオとその軍勢があなたたちに追いつくことはなく、海に溺れてしまうのを恐れることもない。

(78) ファラオが軍勢を引き連れて追いかけたが、アッラーにしか真実のわからない溺れ方で彼もその軍勢も溺れてしまった。ムーサーとその一団は助かったが、他は皆滅び去ったのである。

(79) ファラオはその民を不信仰がよいものであると思わせて惑わし、虚偽で彼らを騙して正しい道へと導こうとはしなかった。

(80) イスラエルの民をファラオとその軍勢から救った後でわれらは言った。「あなたたちの敵から救ったのはわれらである。トゥール山側の谷の右側でムーサーに話しかけると約束したのもわれらである。われらの恩恵のうち、蜂蜜のように甘い飲み物を与え、ウズラに似た肉の美味しい小さな鳥を与えたのもわれらである。

(81) 許された食べ物のうちわれらがあなたたちに与えた美味しいものを食べよ。われらがあなたたちに許したものから禁じたものへと一線を越えてはならない。わが怒りが降りかかることになるからである。わが怒りに見舞われた者は、この世でもあの世でも不幸になり破滅してしまうのである。

(82) だがわれは悔い改めて信じ、善い行いをし、真理の道をまっすぐ歩む者に対し、よく赦す寛大な者である。

(83) ムーサーよ、あなたの民を置き去りにしてまであなたを急かすものは何か。」

(84) ムーサー(平安あれ)は言った。「彼らはすぐ私の後ろにいて追いつくでしょう。私が彼らよりも先に来たのは、急いで馳せ参じることであなたが喜んでくださるようにです。」

(85) アッラーは仰せられた。「われらはあなたが置き去りにしたあなたの民を牛への崇拝で試みた。サーミリーが彼らをいざない、彼らは迷いに陥ってしまった。

(86) そうしてムーサーは牛を崇拝するようになってしまったことを怒りながら民のもとへ戻り、悲しみながら言った。「わが民よ、律法を下すことでアッラーはあなたたちに天国入りのよい約束をしてくださったのではないか。それとも待つのが長すぎて忘れてしまったというのか。それともそれをすることで主からのお怒りをもたらし、罰を受けたいのか。だから私が戻るまで信仰に忠実であれという私との約束を破ったのか。」

(87) ムーサーの民は言った。「ムーサーよ、我々があなたとの約束をわざと破ったことはない。どうしようもなかったのだ。ファラオの民の装飾品を運ぶのが重たく、サーミリーの弓隊が穴の中で投げるたびに大天使ジブリール(平安あれ)の馬の砂塵が舞い起こるほどだったのだ。」

(88) サーミリーがイスラエルの民にあの宝石から魂のない牛の体を作った。鳴き声は牛の鳴き声のようである。サーミリーの行いに惑わされた者たちは言った。「これがあなたたちの崇めるべき存在であり、ムーサーの崇める御方。彼はそれを忘れてここに置いて行ったのだ。」

(89) 牛の像に惑わされて崇めるようになった者たちは、その牛が応答することもなければ、彼らのためにも他の誰のためにも害を取り除くこともなく、利益をもたらすこともないのがわからないのか。

(90) ハールーンはムーサーが帰る前に言ったのである。「牛の像を金ぴかにして飾り立てるのは、信者と不信仰者を見分ける試練に他なりません。わが民よ、あなたたちの主は、お慈悲ある御方であり、利害をもたらすこともなければ慈悲を持つこともない存在ではありません。かれだけを崇めることにおいて、私に従ってください。他のものを崇めるのは止めるよう私の命に従ってください。」

(91) 牛の像を崇めるのに惑わされた者たちは言った。「ムーサーが戻るまで私たちはやめないぞ。」

(92) ムーサーは兄弟のハールーンに言った。「彼らが迷ってアッラー以外に牛を崇めるようになったのをなぜ止められなかったのですか?

(93) 彼らを見過ごしておきながら私に従うのですか?私の留守の代理としてお願いしたのに背いたのですか?

(94) ムーサーが兄弟の髭と髪の毛を掴んで非難すると、ハールーンは感情に訴えて言った。「髭と髪の毛を引っ張らないでくれ。私が彼らと共にいたのには理由がある。彼らのもとを離れたら、分裂してしまうのではないかと心配したのだ。そうしたらお前は私に、分裂させた、遺言を守らなかったと非難しただろう。」

(95) ムーサーがサーミリーに言った。「お前は一体何なのだ、サーミリー。お前がしでかしたことの動機は何なのだ?」

(96) サーミリーがムーサーに言った。「私には彼らが見えないものが見えたのだ。ジブリールが馬に乗って現れたのを見て、私はその馬の足元にあった土を掴み、宝石を混ぜて牛の像をかたどった。すると立派な牛の像が出来上がり、わが心もよいものができたと満足したわけだ。」

(97) ムーサーはサーミリーに言った。「もう行くがよい。生きている間ずっと『一切かかわらないでくれ』と言うことになるだろう。清算の日にお前が懲罰を受ける約束が待っている。アッラーはこの約束を違えたりはしない。お前がアッラー以外に崇拝の対象としてそれを広めた牛を見てみよ。われらは必ずそれを燃やして溶かしてしまい、跡形もなく海に沈めてしまうだろう。」

(98) 「人々よ、あなたたちにとって本当に崇めるべき存在は、ほかには崇めるべきものなど何一つないアッラーなのです。かれはすべてを知で覆い尽くし、知らないことなど何一つありません。」

(99) 使徒よ、われらがあなたにムーサーとファラオや両者の民について物語ったように、あなたが前向きになれるようあなた以前の預言者や共同体について語ろう。われらはあなたに訓戒を受け入れる者への訓戒としてクルアーンを与えたのである。

(100) あなたに下されたこのクルアーンに背を向けて信じようとせず、そこにある教えを実践しようとしない者は、清算の日には大きな罪を背負って、痛ましい懲罰に相応しい者としてやって来るだろう。

(101) そうした懲罰の中で永遠に苛むこととなる。清算の日に彼らが背負うもののなんとおぞましいことよ。

(102) 復活の到来を告げるラッパを天使が吹く日、あの世の恐ろしい光景を見て顔色を変え、青ざめた様子でわれらが不信仰者をこぞって集めるその日、

(103) 彼らは互いに囁き合う。「死後、墓の世界(バルザフ)で10日しかいなかったぞ。」

(104) われらは彼らがひそひそと話をしているのをわかっている。われらにわからないことは何一つない。中でもいちばん頭の良い者が言った。「あなたたちがそこにいたのは一日だけでそれ以上ではない。」

(105) 使徒よ、清算の日の山について彼らは尋ねるだろう。言ってやりなさい。「山々をわが主が根こそぎ引き抜いてしまい、粉々に砕いてしまわれるでしょう。」

(106) そしてかつて支えられていた大地を離れ、そこには建物も植物も何もない平らな地となるでしょう。

(107) 観察者よ、大地は完全に平らな状態となり、何の盛り上がりもくぼみも見ないだろう。

(108) その日人々は(復活の)集合場所へといざなう者の声に従い、それに従うのを遮る者はいない。声という声が慈悲深い御方を恐れて沈黙し、その日はひそひそとした声のほか聴くことはない。

(109) そのとてつもない日には、アッラーが執り成しを許してくださり、執り成しの発言を嘉してくださる仲介者のほかはどんな仲介者の執り成しも役に立たない。

(110) 完全無欠なアッラーは人々を待ち受けるその時のことを知っておられ、生前彼らが行ったことも知っておられるが、僕は誰もアッラーの本質とご性質を把握しきることはできない。

(111) 僕たちの顔は謙遜し、決して死ぬことのない永生なる御方へ厳かに向けられる。かれこそはその僕たちの万事を自在に司る御方である。自分自身を破滅の場所へと向かわせる罪を背負う者は、確かに損失をこうむったのである。

(112) 一方、アッラーとその使徒たちを信じて善行をなす人は、豊かな報奨を得るだろう。したことのない罪で罰を受けるという不義を恐れることもなく、善行への報奨が減ることもないのである。

(113) 過去の者たちの物語をわれらが下したように、このクルアーンを明瞭なアラビア語で下した。彼らがアッラーを恐れるのを願い、あるいはクルアーンが啓発と教訓となるように、注意喚起や脅しなど様々な警告をその中で明らかにした。

(114) アッラーはいと高く格別に清浄で荘厳なる御方。すべてのものの所有権を持つ王にして、真理なる御方であり、その御言葉も真理である御方。多神教徒が形容するものからは無縁な御方。使徒よ、ジブリールがあなたに伝えきる前にクルアーンの読誦を急いてはならない。むしろ言いなさい。「主よ、あなたが私にお望みのようによく学べるよう私の知識を富ませてください。」

(115) われらはアーダムに以前ある特定の木から食べるなと言付け、それを禁じた。われらはその禁を破ればどうなるかを明らかにしたが、彼はその言付けを忘れてしまい、辛抱できず木の実を食べた。われらが言付けたことを守る決意の強さが見られなかったのである。

(116) 使徒よ、思い起こすがよい。われらが天使たちに「アーダムに挨拶の跪拝をせよ」と言ったときのことを。天使たちは皆跪拝したが、イブリースだけは違った。そもそも彼は一緒にいたが同類ではなく、傲慢なために跪拝を拒否したのである。

(117) われらは言った。「アーダムよ、イブリースはあなたとあなたの妻の敵である。だからあなたとあなたの妻が彼の囁きに従って天国から出され、辛くて嫌な思いをしなくてよいようにせよ。」

(118) 天国ではアッラーに食べさせてもらうことができるからお腹を空かせることもなく、衣服を着せてもらえるから裸にならずともよいのである。

(119) そしてかれが飲ませてくださるから喉が渇くこともなく、木陰を与えてくださるから太陽の日差しに暑い思いをしなくともよい。

(120) ところが悪魔がアーダムに囁いて言った。「その実を食べれば決して死ぬことはなく、永遠に生きることができ、途切れることも終わることもない永遠の王国を手に入れられるようになる木へと案内してやろうか。」

(121) アーダムとハウワーは食べてはいけない木から食べたので二人には恥部が秘められていたのが明らかになり、天国の木の葉を取って二人の恥部を覆った。こうしてアーダムは木の実を食べないようにという主のご命令に背き、許可されていない一線を越えてしまったのである。

(122) それからアッラーは彼を選良とされ、その悔悟を受け入れられ、正しい道への成功を与えられた。

(123) アッラーはアーダムとハウワーゥに仰せられた。「あなたたち二人は天国から下るがよい。イブリースはあなたたちの敵であり、あなたたち二人も彼にとっての敵である。だからもしあなたたちのもとにわが道を明らかにするものが来たならば、すなわちあなたたちのうちわが道を説くものに従い、それを実践して逸れなかった者は、真理から逸脱することもあの世で懲罰に苦しむこともなく、アッラーに天国へ入れてもらえるだろう。

(124) 一方、わが訓戒に背き、拒んで応答しなかった者は、この世でも墓の世界でも狭苦しい生活を与えられ、清算の日には視覚も弁明も失った状態で復活の地へ連れて行かれるだろう。

(125) 訓戒に背いた当人は言う。「主よ、この世では目が見えていたのに、なぜ今日目の見えない状態で復活させたのですか?」

(126) 至高のアッラーは彼に応えて仰せられた。「この世でもあなたはそうであった。あなたのもとにはいくつものわれらの印がやって来たにもかかわらず、あなたはそれに背き去ったのだ。それと同じように今日あなたは懲罰の中に捨て置かれるのである。

(127) この報いと同じように禁じられた欲求解消におぼれ、主からもたらされた明確な証拠の数々による信仰に背を向けた者に報いるだろう。あの世でのアッラーの懲罰のほうがこの世や墓の世界での低劣な暮らしよりもおぞましく強烈で永続的なのである。

(128) 多神教徒たちには彼ら以前にわれらが滅ぼした多くの共同体がわからないのか。滅ぼされた社会が暮らしていた町の上を歩きながら、彼らを襲った災害の後を見ておきながらである。本当にそうした多くの社会を襲い、破滅と壊滅へと至らしめたことは理性ある者への教訓である。

(129) 使徒よ、立証前には誰も罰することはないというあなたの主の御言葉がなかったなら、前もって定められた猶予がなかったなら、彼らに相応しい懲罰が即座に降りかかっていただろう。

(130) だから使徒よ、あなたを否定する者たちが言うでたらめな言葉には辛抱せよ。そして日の出前の早朝(ファジュル)の礼拝、日没前の遅い午後(アスル)の礼拝、夜の時間帯の日没後(マグリブ)と夜(イシャーゥ)の礼拝に、午前の終わりの正午過ぎ(ゾホル)の礼拝に、あなたの主の栄光を讃えよ。アッラーの御許よりあなたが満足する報奨を得られるように。

(131) われらが試練のためにこの世の栄華を楽しませている否定者たちの様々な恩恵を見てはならない。われらが彼らに与えたものは消え失せるからである。あなたが満足するまで与えてくださると約束してくださったあなたの主からの報奨のほうが、彼らがこの世で享受されている消え行く享楽よりも良く、終わることなく長続きするのである。

(132) 使徒よ、あなたの家族に礼拝を命じよ。実践できるようあなたはよく辛抱せよ。あなたのためにもあなた以外の者のためにも、われらが糧を求めることはない。むしろわれらがあなたの糧を請け負うのである。アッラーを恐れ、そのご命令を果たし、禁止を避けることでアッラーを意識する者たちにこそ、この世でもあの世でも誉れある結末はある。

(133) 預言者(祝福と平安あれ)を否定する者たちは言った。「ムハンマドは自分の正しさを証明する主からの印をなぜもって来ないのか。」彼ら否定者のもとに、彼以前の天啓の書を確証するクルアーンが来ることはなかったか。

(134) 万が一預言者を否定するこれらの者たちをその不信仰と頑固さで彼らに使徒を遣わす前、啓典を下す前に懲罰として滅ぼしたとしても、清算の日には自分たちの不信仰を言い訳がましく言うだろう。「我らが主よ、この世で我々のもとに使徒を遣わしてくれたなら、我々は彼を信じ、あなたの罰を受けて屈辱と恐怖に襲われる前に彼がもたらした印に従ったでしょうに。」

(135) 使徒よ、これらの否定者たちに言いなさい。「私たち一人ひとりがアッラーの行われるのを待っています。だからあなたたちも待ってください。必ずや誰がまっすぐな道を歩む人たちで、私たちかあなたたちか、誰が正しく導かれた人たちかをやがて知るでしょう。」